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高橋のぼる 『劉邦』 を読んだ。 歴史漫画でもやはり高橋のぼる作品だった

 小学館の漫画アプリ、マンガワン高橋のぼるの『土竜の歌』を読んでいたらよく出てくるお勧め作品『劉邦』を読む。主人公は中国前漢の皇帝、高祖・劉邦泗水郡沛県豊邑中陽里(現在の江蘇省徐州市豊県)で生まれ育った町のごろつき、劉季。武勇も才気もない彼がどのようにして後に中華を統一したのか、その生きざまを描く。といった作品。

 

 史実にはある程度基づきながらも、土竜の歌に代表されるような高橋のぼる節が効いていて、非常に面白いエンタメ作品だ。特に史実にある様々な逸話が荒唐無稽でありながらも、読んだ人間をだまらせてしまうような力技で描かいている。

 劉邦の軍師となる張良には怪力の力士に重さ120欣(約30㎏)の鉄槌を投げ落とさせて、博浪沙(現在の河北省陽武県の南)で巡行中の始皇帝を暗殺しようとしたとされる逸話がある。史実によれば、暗殺は失敗、張良と力士はそれぞれ、別の方角へと逃げ、張良はのちに劉邦の軍師に、力士はその後行方知れずとなっている。

 それを高橋のぼるは力士を怪力無双の奴隷に変え、中国の神話で天地開闢の神とされる盤古と名を与え、張良との山籠もり、ハンマー投げの特訓の日々を描くのである。史実の通り、暗殺は失敗するわけだが、そこで高橋のぼる盤古張良を助けるために命を落とす役目を与えて、張良始皇帝への復讐に駆られていた自分の生きる意味とは果たして何だったのかと考えるきっかけとして、のちになぜ才気もなければ武勇もないとされる劉邦の軍師となったのかにつながる布石にしている。

 このように史実では描かれることのない、点と点の間の線が全部高橋のぼる味で味付けされている。

 劉邦とその盟友でもあり、のちに宿敵になる項羽の描き方も面白い。劉邦一行の流れはとにかくコミカルで、極力血を流さずに田舎のごろつきだった劉邦がその強運と人としての魅力、それだけでごろつきから一国一城の主へ、そこから、という姿を描くのに対し、項羽のたどる道は全く異なる。ある種その苛烈さゆえに敗れることになった項羽の武人としてしての姿、強さゆえに周囲を寄せ付けないその孤独のようなものを史実には登場しない恋人、彼女を失う姿でもって描いている。

 劉邦が各地の女をなかせ、部下に恨みごとを言われながらも愛されているのとは対照的で、描き方が見事だった。

 とはいえ、まだまだ物語は前半部分。史実でいうとまだ秦打倒のために劉邦項羽が義兄弟を結んだ当たり。劉邦の周りは今のところコミカルで温かみがあるのだが、史実でいえば今後、姑息で卑劣で、権力を守るためには腹心すら命にかけようとする王としての傲慢さみたいなものを見せ始める劉邦、そして苛烈がゆえに秦を打ち滅ぼしたあと、次第に追い込まれていく項羽の姿どのように描かれるのか、気になる。

 

劉邦(1) (ビッグコミックス)

劉邦(1) (ビッグコミックス)

 

 

 

 

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