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カイロ大学 感想 混沌と闘争の学府の名に偽りなし

 もう、情報の海に流されてしまったような感が否めないが、一時前まで文芸春秋社から出たノンフィクション『女帝 小池百合子』の存在により、小池百合子東京都知事カイロ大学を卒業していないのではないか、いわゆる「学歴詐称疑惑」が再燃していた。

 その流れで、注目を浴びたのが小池氏が学んだとされる中東一の大学との呼び声もある”カイロ大学”だ。果たしていったいどういう学び舎なのか気になったので、実際にカイロ大学に留学した経験のあるジャーナリスト浅川芳裕氏の著作『カイロ大学』を手に取った。

 本書は簡単に言えば、浅川氏がカイロ大学留学記である。大学に入学するまで、そしてカイロ大学の建学史、それを彩る、思想家たちや、ウサマヴィンラディンやサダムフセインアラファト議長など中東社会を率いた人間たちの人物伝。そして浅川氏のカイロ大学生活やカイロを離れるに至った顛末が記されている。

 一言で言うなら大迫力な内容だ。浅川氏がカイロ大学に入学した経緯すらまともではない。取り合わない事務方、どうにかするために文部大臣に直談判の上、なんとか入学できたという。口八丁手八丁、人脈や金、時には物理的に”脅す”ことによって、成り立っている、日本やアメリカの試験に受かれば入学できるという一般的な入試制度からは考えられない、非合理な制度だ。

 大学の講義もまともではない、異常な人口密度、普通の講義に数百人は当たり前。合間合間に休憩時間などなく、まともに授業を受けていたら次の講義には必ず遅刻する。教員の給与は少なく、自身の書籍を買わせるために講義立てたりする。場合によっては座学の時間ではまともな説明をせず、単位を何としてでもとりたい学生を自身の有料の個人講座に参加させるようなことまでする始末。しかもそこに絡んでくるのがエジプト当局。権力の監視の目すら光っており、そこも金と人脈と口八丁手八丁での交渉が余儀なくされる。本書で形容される”混沌と闘争”という言葉通りのカオスぶりである。

 こんな流れを見てから小池百合子都知事について考えると、出所不明な卒業証書が出てきてなんだかよくわからないうちに丸め込まれてしまっている現状というのも納得できるような気がする。こんな大学でまともに卒業することにどれくらいの意味があるのか、むしろ小池百合子のような人材を輩出する場所であることに意味があるような気もしてくる。

 そんな混沌と闘争の学府、本書の中で浅川氏はなかなか執拗に進めてくる。確かに、実際に権力が介入してきたり、そこを自らの力で切り抜けるという唯一無二の体験はできるかも。私もついつい若いころだったら通ってみることを考えてもいいと考えてしまった。

 ちなみに書籍の方は絶版なのでプレミア価格だが、kindle版は普通の新書値段なので、そちらで購入するのをお勧めする。

 

カイロ大学 (ベスト新書)

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