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バクラウ 地図から消された村 を見た

 

2020年11月28日公開(日本)

フランスとブラジル合作。「アクエリアス」 などを手がけたクレベール・メンドーサ・フィリオ監督の作品である。

Twitterで、全裸の高齢黒人男性と白人女性が画面を見下ろしている外連味たっぷりの本作のシーンを見たことで気になったので視聴した。

 

 (以下、本稿は「バクラウ 地図から消された村」のネタバレを含んでいます。)

 

 

舞台となるのはブラジル北東部ペルナンブコ州の奥地にある小さな村「バクラウ」だ。

ペルナンブコ州は19世紀末から20世紀初頭に大規模な干ばつの被害に見舞われ、苦境に立たされた。その結果、多くの人間が都市部に流出。残った人間を中心に「カンガセイロ」と呼ばれる義賊や独自の秘教を信奉する集団が生まれた場所としても知られる場所だ。*1

バクラウもまた、カンガセイロや秘教を信奉する集団の流れをくむコミュニティであることが、物語の中で徐々に明らかにされていく。

村のとりまとめ役である男「パコッチ」は、一見すると穏やかに見えるが、動画配信サイトで彼と同名の男がヒットマンとして暗躍する動画が投稿される。村人たちに英雄のように慕われている若者「ルンガ」は指名手配犯だ。とにかく物騒である。

また、村人たちは「力を与える」という謎の木の実のようなものを「薬」と称して飲む文化がある*2

物語は長老である老婆「カルメリータ」の葬儀のため、娘が村に戻るところから始まる。カルメリータの葬儀のシーンでは、村医であり、友人でもあった「ドミンガス」がカルメリータの遺骸に向かい「この魔女め!」と罵倒する場面があるのだが、物語後半では、それが、たんなる罵倒だけではない意味を持った言葉であることが示唆される。

見るものの前にはカンガセイロに由来のある暗い歴史、そして前近代的な文化を持つ、バクラウの沿革がたんたんと映し出されていく。しかし物語の導入部分で「バクラウ」は「これは今から少し後の話」であるというテロップが、近未来を扱ったSF作品であることが伝えられている。

一体何を見せられているのか、と思っていると、長老である「カルメリータ」の葬儀と訪れるはずのない「異邦人」の到来を起点にして、徐々に村に不可思議なことが起こり始める。

「バクラウ」という村の名前はインターネットの地図上から突如姿を消し、村はずれにすむ老人ダミアーノを、アダムスキー型UFOのような形をした飛行物体が付け回しだす。そして、村の命綱である給水車のタンクが何者かの銃撃により壊され、使い物にならなくなってしまう。

ついに何名かの村人が襲撃されてしまう。ここで「バクラウ」は近未来世界に取り残された前時代的な風習を遺した村であること。昔から支配者と血で血を洗う抗争を繰り広げてきたこと。そしてバクラウがおかれた行政都市の市長は彼らの存在を疎ましく思っており、排除のために雇われた殺人部隊に村が狙われていることが明らかになってくる。

アメリカ人(グリンゴたち)を中心に組まれた殺人部隊はUFO型のドローンやスマートホンのような謎の機器など、最新鋭の道具を駆使し、村人の動向を把握。電気や電波などのライフラインを絶ち、追い詰めていく。

たいして、バクラウの村人たちは英雄「ルンガ」やその仲間たちの助けや力を授ける「薬」を使い、村の血の歴史を伝える博物館に飾られた、バクラウの民たちの戦いを支えてきた古の「武器」を手にし、殺人部隊に徹底抗戦を試みる。

西部劇を基調としながらも、SF、グロ・ゴア・スプラッター、様々なジャンルを取り入れ、その中で、西洋先進国と第三国の埋まらぬ文化社会的な溝、ブラジル国内の社会問題、失われていく文化への憧憬など様々なテーマを破綻なく扱い、そして最後の血で血を洗うような鮮烈な結末へと導いていく様は見事だった。

独特の魅力を持つ怪作である。

 

 

*1:参照:アウトローの世界史 ブラジルの歴史 のちにおおくのカンガセイロは匪賊、すなわち自らの目的のために、虐殺、略奪を繰り返すものがほとんどだったとする説もあるようだ。 参照文献 ブラジルの歴史

 

 

 

参照文献 アウトローの世界史

 

 

*2:明確な説明はないが、幻覚作用があるような描写もある