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最近読んだ本 まとめ 『新版ファイト・クラブ』 『ハーモニー』 『犬が殺される』 『永遠の最強王者ジャンボ鶴田』 

 最近読んだ本の記録をまとめておく

 

 『ファイト・クラブ 新版』(チャック・パラニューク

1999年に公開された、デヴィッドフィンチャー監督、エドワードノートン、ブラッドピットダブル主演の映画版は見たことがあった。だが、こちらの原作版ははじめて。読もうと思って、数年来探していたのだが、翻訳版が最初に出たのは20年以上も前、しかも、絶版で、手に入らなかった。此度、早川から新訳版が出たので読んでみることに。

細かな違いはあるけれど、ほとんど映画版との違いの無い作品だった。よく映像化したな、という感じ。ストーリーは読んで確認してもらいたいのだが、簡単に言うと。とかくないがしろにされがちな、市政の人々が生きる意味、この資本主義社会で自分自身の軸を持ったまま生き続けるために必要なこととは何なのか。それが”僕”と”タイラー”の視点で綴られている一冊だと感じた。SFだ、とか未来を予測した一冊(映画そして原作ではテロ行為がえがかれているが、その数年後に9.11同時多発テロが起こっている)とも言われるが、解説でも書かれている通り、いつの時代に読んでも色あせない、古典的な名作だと思う。

 映画と一緒に読んだほうが面白いかもしれない。

 

 

 

『ハーモニー』(伊藤計劃

夭逝した伊藤計劃氏が残した、長編作品の一つ。言わずと知れた名作である。作品について知ったのはずいぶん前だが、恥ずかしながら最近はじめて読んだ。いわゆる百合SFの先駆けともいえる、主要登場人物3人の関係性。細かなガジェットに見られる、伊藤氏の趣味。そして、徹底的に貫かれていた「わたし」という一人称で物語が綴られてきたことの意味が分かる終盤の展開。そして明らかになるタイトル「ハーモニー」の意味。個の存在が消滅して、全てが自明になることのよさ、あるいはディストピアとして、その両方ともとれるようなふくらみのある終わり方がさすが。

コロナ禍によって、医療疫学的な言説でもって、当たり前のように人が数字として管理され、大きな目的のために役立てられようとしている社会にいる今、本書を読むと、伊藤氏の想像力の深さを感じさせられる。面白かった。

 

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

 

 

『犬が殺される』 森映子

 

時事通信社文化特信部記者の森映子氏が動物実験の闇に迫った一冊。タイトルが煽情的だし、インターネットなどで、最近よく、ダブルスタンダードな動物愛護主義者のすがたを見るので、そういう一冊なのかなと思って読み進めてみたが、さすがは時事通信社のジャーナリスト。そこに描かれているのは、どう言葉を選んでも”闇”としか言いようのない、人間の利益の為だけに生かされ殺される動物の姿だった。

本書で描かれる動物実験はとにかく凄惨を極めるものばかりだ。ただ、個人的には実験の内容よりも、動物の命の為をもって獣医学部に進んだ学生が、動物の命を何とも思わないような大学の実習に心を痛め、場合によっては、挫折していく姿が得かがれているのが、心に来た。獣医師を目指す若者たちが、心をおられるほどの動物実験が行われる。麻酔も使わず、痛みを伴う実験が行われ、外科手術のための練習を同じ犬で5日連続でやったりもする。当然、犬は死んでしまう。凄惨というよりほかない。よく、獣医学部に入ると獣医師をやめたくなる、みたいな話を聞くが、本当にその通りだと思ってしまった。

もちろん、一部では凄惨な動物実験をそのままにはしていない。是正は進んでいるようだ。化粧品メーカーなどでは、動物実験の不使用を公言するところもある。極力配慮していることを謳っている企業もある。

だが、こちらも闇なのだが、本書を読み進めてみると、そうは言いつつも、動物実験委員会に利害関係のない第三者を入れることをかたくなに拒否する業界団体。動物実験施設への著者の取材をのらりくらりとかわし続ける企業の姿も描かれる。本当に問題ないのであれば、見せてもいいはずなのに、だ。動物実験そのもの以外にも闇は広がっているのかもしれない。

正直に言えば、個人的には、動物実験を0にすることは不可能だと思っている。あまりに無謀だと思っている。医薬品など、一部の分野では安全性や倫理の問題を考えた場合、人間でやるという選択をとれない。そうである以上、動物の命に頼らざるを得ない部分がある。だがしかし、もう少し人間の利益のために命を使われる動物の存在に目を向けてもいいのではないか、周知されてもいいのではないか、と思ってしまった。

 

 

増補改訂版 犬が殺される 動物実験の闇を探る

増補改訂版 犬が殺される 動物実験の闇を探る

  • 作者:森 映子
  • 発売日: 2020/10/08
  • メディア: 単行本
 
犬が殺される 動物実験の闇を探る

犬が殺される 動物実験の闇を探る

  • 作者:森 映子
  • 発売日: 2019/03/11
  • メディア: 単行本
 

 

 『永遠の最強王者ジャンボ鶴田』小佐野景浩

週刊プロレス編集長の小佐野氏が関係者や親族への語りから、ジャンボ鶴田の実像に迫った一冊。ジャンボ鶴田は日本人レスラー最強との呼び声も高い名レスラーだが、いわゆるプロレスラー然としていない、穏やかで、のんびりとした姿も印象に残っている男である。本書ではもちろん、天龍源一郎長州力などへのインタビューを通して、当時の逸話やレスラーとしてのジャンボの強さを象徴するようなエピソードが描き出される。だが、やはり本書に描かれるジャンボ鶴田の姿で秀逸だったのが、帯に「普通の人でいたかった怪物」と書かれているように、あくまでも普通の人間として生きようとした鶴田の姿である。

安いものを好んで食べ、後輩にはおごらず、財テクを駆使して財を築き、晩年は大学の教員になることも目指していた。よく言えば、堅実だ。引退後の第二の人生についてもしっかりと考えており、スポーツマンとして理想的ともいえる。だが、食事はとにかく全ておごる。宵越しの銭は持たず、豪快。といったような、いわゆるプロレスラー然とした姿はそこにはない。

正直に言えばちょっとダサい。だが、鶴田は許されたし愛された。

もちろんそこには鶴田の人柄もあったのだろう。だが、本書を読み進めていくと、やはりそこには本人の強さが影響していたように思えてならない。強かったからこそ、鶴田のままでいることが許されたし、誰からも表立ってはけちをつけられなかった。

だが、だからというか、彼が「全日本プロレス就職します」と入団時に語った言葉に表されているような平凡な人間として生きること、死ぬことは許されなかった。

読んでいてそんなことを考えてしまった。あまりにも突然の死だった。生きていたら、彼はどうなっていたのだろうか。日体大とかで教鞭をとっていたのだろうか。

 

永遠の最強王者 ジャンボ鶴田

永遠の最強王者 ジャンボ鶴田

  • 作者:小佐野 景浩
  • 発売日: 2020/05/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)