風呂なしアパートに住む 雑感 流行り病で詰む生活に
現在私は都内で、風呂なし家賃3万7000円(管理費込)の部屋に住んでいる。なぜかと言えば、非正規雇用の身の上でいつクビを斬られてもおかしくなく、固定費を下げていれば、この先来るであろう、失職も乗り切れる。そんなことを思ったからだ。いざ探してみたところ、条件のいい物件が見つかったので、勢いで入居を決めてしまった。住んでみて1年程度たったので雑感を記しておくことにする。
結果から言えば、もう少し熟考すべきだったと思っている。
まず簡単に、今住んでいる風呂なしの木造アパートのスペックを記す。場所は東京23区内。最寄り駅は新宿にほど近い、JR中央線某駅。徒歩5分圏内の住宅街の中に住んでいるアパートはある。
立地は悪くない。単に駅に近いだけでなく、周囲に多数のスーパー、飲食店がある。銭湯も徒歩5分圏内で3件。10分ほど歩けば、10件ほどある。また、徒歩5分圏内に数件ジム(エニタイムフィットネスなど)もある。風呂がなくても体を洗う施設はアパートの近くにたくさんある。
間取りは1K、広さは約20㎡、エアコン、給湯器はなし、トイレは和室、キッチンは2口コンロがおけない程度の広さといったスペックである。ちなみに風呂も給湯器もないので、ガスは契約せず、料理はもっぱらIHコンロかカセットコンロで済ませている。
壁は薄い。外の音、大声でしゃべっている人間の声が聞こえてくる程度、上階の住人の生活音は咳の音まで聞こえてくると言った感じだ。
ただ、右隣は空室、左隣は個人事業主の方が倉庫のように使っていて、平日はほとんど在室していない。だからそこまで自分の出す騒音も近隣住人の出す騒音も気にしなくてすんでいる。ちなみに大家さんと管理会社には内緒だが、趣味でギターを弾いている。エレキギターの生音程度なら全然問題ない。(もちろん、時間と音の大きさには十分注意しているが)
人によっては我慢ならない部分もあるかと思うが、23区内で駅近の物件、これで3万円台の家賃は結構安い金額だと思われる。ちなみに下北とかハイソな街だと風呂なしでもうちょっと狭い部屋でも家賃4万円台の物件があったりするので、風呂なしの中でもそこそこお得な物件である。もちろん、告知義務事項はなかった。
風呂はどうしているのかというと、近所にあるエニタイムフィットネス(月額7000円強)に通って、済ませることがほとんどで、疲れたときや少し贅沢をしたい時に銭湯に行くようにしている。だいたい月にかかるのは1万円ほどだろう。
こんな環境で1年過ごしていた。感じたメリット、デメリットは事項で示すことにする。
メリット 生活費が安いのでそれほど給料がなくても快適
毎月かかる固定費が安いので当たり前ではある。月の生活費は無理に節約をしなくても10万円ほどですんでいる。
細かく見ていこう。先ずは食費だ。
立地のいい場所で物件が見つかったからこそではあるが、スーパーの選択肢も多い。スーパー以外に八百屋肉屋魚屋もある。食材を探すのもそれほど苦にならない。その分、自炊の選択肢も増え、食費も自然と削れている。月にかかる食費は外食を入れて無理に節約をしなくても、4万円ほどである。多少贅沢をしても6万円くらいですんでいる。
水道代はトイレと手洗い、調理をするとき、インスタントの味噌汁やラーメンを作る時に使う分くらいしかかからないので、この一年で基本料金を超えることはなかった。
電気代は若干勉強不足の部分があった。どうせそんなに使わないだろうと高をくくっていたのだが、部屋の壁の薄さを甘く見ていた。寒すぎたのである。そのため、冬は電気ストーブ代が高くついた。しかも基本料金を超えた分の従量課金制なので、一人暮らしなのに月に1万円以上とかなり高額に。ただ、基本的にはほとんど使わない生活なので、かかっても月に2000円ほどであることが大半だった。ここ1年で慣らすと平均4000円ほどになった。
通信費はパソコンやゲーム機の接続に使うWi-Fiが月に4000円弱。スマホはキャリア回線を利用しており、5000円ほど併せて1万円くらいである。
先ほど説明した風呂の1万円と合わせると、毎月必ずかかる金はだいたい10万円弱というわけである。身近に生活費を比べられる友人がいないので(実家暮らしや学生であるため)、一概には言えないが、結構少ない方だと思う。毎月特に気にせず本を買ったりゲームソフトを買ったりしても、貯金はできている。生活費もだいたい変わらないので、当面のお金の心配はない。特に節約を意識しなくても、別段家計簿を付けなくても、こんな感じである。やはり賃料の安い風呂なしアパートに住んでいるからだといえる。
デメリット たくさんある
正直、この1年を振り返ると、先ほど挙げたくらいしかメリットがなかった。勿論、あげようと思えば、頭をひねればいくらでもある。家に風呂がないから、東京各地、場合によっては地方の銭湯に顔を出すことができる、銭湯に詳しくなれる。だとか。あこがれの町にやすく住めるなんてこともいえる。
ただ、上にあげたものは、見方によってどうとでも変わるし、やはり強がりだろう。風呂はライフラインである。ないとやっぱり大変なのである。
デメリット 風呂がないと生活がつむ場合もあるぞ
この言葉に尽きる。風呂のないアパートを自分で選んでおいて何だが、風呂のない1年はつらかった。最初こそ上で説明したように「銭湯選び放題だな、楽しむぞ」「ジムに毎日通って体を鍛えるのもありだな」とか無邪気に思っていたのだが、私は入浴という行為を甘く見ていた。
人は仕事をしたり、何か忙しく動く、ストレスがたまると疲れる。疲れればいろいろなことおっくうになる。食事を作るのが面倒になる。場合によっては食事するのも面倒になる。ただ、食事はとらないと当たり前だが死ぬし、人によってはストレスを解消する役目もあるだろう。よほどのことがない限り、取らないという選択肢が浮上することはない。少なくとも私の場合はそうだ。
それに対して入浴である。入らなければ体は汚くなるが、よほどのことがない限り、この日本において、風呂に入らないことが原因で死ぬことはないだろう。社会的には死ぬかもしれないが、2,3日くらいはごまかしもきく。それでも家に風呂があれば、まだ何とかなる。
家に風呂がある場合、おっくうなことと言えばせいぜい、湯舟に十分たまるまで待つ、着替えを用意するくらいだろう。まあ風呂掃除もあるかもしれない。湯舟に行くのが面倒という場合もあるかだろう。それでも家の中である。エイヤとやればすぐにすむ。湯をためるのが難しければシャワーでもいい。
だが、家に風呂がないと、まず風呂に行くための準備をしなくてはいけない。着替えを用意する。日常使いの銭湯やジムはタオルやせっけんをおいていない場合には一式が入ったバッグを用意する。場合によっては風呂に入るために着替える。そして外に出て、歩いて銭湯に向かう。到着してからも面倒だ。ジムによってはシャワーのみの利用は禁じているところもある。そうすれば形だけでも運動をしなくてはいけない。
時間もかかる。家に風呂があれば、急げば10分15分で住むかもしれないが、銭湯の場合は通うだけでも時間がかかる。しかも、自分一人が使っているわけではない。湯舟や洗い場、脱衣所で、人を待たなくてはいけない。これもまた面倒だ。
要するに当たり前だが風呂がないと入浴という行為のハードルがずいぶんと高くなる。そして、風呂に入らないという選択肢を選ぶ順位も必然的に高くなるのだ。
私は現在、人と会うことが多い仕事に従事しているので、それでもなんとか風呂に入ってはいたが、在宅が多い仕事だったらどうだっただろうと考えてしまう。2,3日は平気で風呂に入らなかったかもしれない。
また、ここ最近のコロナ禍である。みな苦境にあえいでいると思う。風呂がない生活もより大変になった。ジムは非常事態宣言下で休業になってしまい、私の生活の中のインフラの一つが断たれた。もちろん銭湯は公衆浴場法という法律もある通り、公衆衛生に一定の役割を果たすことからクラスターが発生するわけでなければ営業を続けていたが、それでも痛い。銭湯に入りたいから入るのと、銭湯しか選択肢がないのは全く違う。
私はまだ、銭湯が近所に数件あるという立地に住んでいたからよかったが、銭湯は近所になく、もっぱらジム頼みだった場合を考えると恐ろしい(そういう物件も視野に入れていた)。水をコンロで沸かして体を拭く、という手段を取らざるを得なくなった可能性もある。
やはり風呂はインフラ的な側面がある。家になければ、社会情勢によっては結構簡単に生活が破綻してしまう可能性がある。人が人らしく振舞えることの大事さ、それを維持することの難しさを私は甘く見ていた。
カネがあるなら無理して住む必要はない
デメリットなんてあげているのだが、実際、コロナの流行は別として他の要素は冷静に考えれば気が付きそうなものである。だが、私は意外と何とかなると思っていたのだ。というのも、私は物心ついた時からいわゆる文化住宅(トタン屋根のあばら家みたいなやつ)で暮らしていて、エアコンも給湯器も家で初めて使えるようになったのは20代を過ぎてから。不便な生活も問題ないと思っていた。だが、思えばそんな生活でも風呂が絶えることはなかったので、その大変さに思い至ることができなかったのだ。
今思い返せば私は単に安いから今のアパートを選んだだけでなく、アドレスホッパーやらミニマリスト、少ないお金で身ぎれいに暮らす人間にあこがれていた部分もあったと思う。だが、考えてみれば彼らはあれで飯を食っているのである。いうなればプロだ。こっちはアマチュアだ……。
結局、ないものはない。デメリットはしっかりとある。とはいえ金はないのでおいそれと今の生活を変えることもできない。今後もうまく付き合っていくのか、ちょっと無理をして、風呂のある部屋に住み替えるのかは要検討中である。
金が払えるのであれば無理して住む必要はないのかもしれない。そんな当たり前のことに、1年ちょっと住んでやっと思い至るようになった。悲しい……。