写経で文章がうまくなりたい11 座間9人殺害事件の現場に住む男
座間9人殺害事件の白石隆浩被告(30)の死刑が2021年1月5日(火)午前0時に確定した。白井被告はすでに、昨年12月15日に死刑判決を受けていて、21日に自身で弁護側の控訴を取り下げていた。
白石被告は自殺願望を持った男女を神奈川県座間市内にあるアパートの自室に招き入れ、ロフトから垂らしたロープで首を絞め殺害。殺害後、遺体を浴室で解体、クーラーボックスに切断した頭部を保管していた。被害者は男女合わせて9人に上る。平成になってからまれに見る凶悪な事件として連日話題になっていた。今回の死刑確定でひとまず結論が出た形になる。
ただ、裁判では殺害の動機を金銭目的と語っている白石だが、殺している人間と殺していない人間がいたとか、そこの線引きは不明確。そもそもここまでの凶行にいたった背景には何があるのかも今一つわかっていない。遺族の心のケアもある、といった解決すべき、解明すべき問題は依然として残っているのも事実だろう。今日の死刑確定の発表を受け、改めて事件を調べていると面白い記事があったので、それを写してみることにした。
講談社の写真週刊誌FRIDAYのデジタル版にて2019年6月20日に公開された
『驚愕! 座間市9人連続殺人の「事故物件」に住む男』と題された記事である(現在は有料版にて公開中)
タイトルの通り、事件が起こった座間市内のアパートのその部屋に住んでいる、41歳の男性にインタビューを試みたという記事である。煽情的なタイトルでいかに恐ろしいことが起こるのかと思いきや、登場した、事故物件の住人、安川マサシさん(当時41歳仮名)はあっけらかんとしたもの。
事件当時から変わっていない壁紙、鑑識の科学捜査に使用した薬品の影響によって青く変色したドアや壁もそのまま。なにやらいわくありげな、もとから備え付けられていた冷蔵庫も『汚いのでつかわなくなった』とさらりと語るし、白石被告が遺体の解体に使用した浴室も使っているのだとか。記事には部屋の写真も写されているが、ここが白石被告の部屋だと言われなければ全くわからない。椅子が無かったり、少々ものは足りないものの、こぎれいな部屋だ。
聞けば、安川さんもともと15年間実家に引きこもっていたとのこと。現在は海外治験で生計を立てていることもあり、とにかく安くて快適な部屋に住みたかったのだとか。そういった理由があったからか、そもそも話題になるまで事件のことも知らなかったのだという。おどろおどろしい記事になるかと思いきや、事故物件に住む人間のライフスタイルも垣間見える記事だった。
案外こうして人知れず、何やら異様に家賃の安い物件に住んでいる人はいるのかもしれない。
ちなみに安川さんがいまだに件の部屋に住んでいるかどうかは不明である。
サイバーパンク2077 50時間プレイした感想
サイバーパンク2077(スパイク・チュンソフト2020年12月10日発売)をハードモードで50時間ほどプレイ、終盤までストーリーを進めたので、感想をまとめておく。
(プレイ環境はPS4)
たびたびの発売が延期、発売後もセーブデータがクラッシュするという致命的なバグが見つかり開発元がダウンロード版の返金対応を取るなど、騒動を起こしたサイバーパンク2077。50時間プレイした感想としては、元も子もないが、フルプライスのゲームだけある完成度の高い作品だと感じた。
サイバーパンク2077 世界観、戦闘システムなどできはよい
とにかくゲームの世界観へのこだわりが強い。大本となったTRPGが80年代から90年代初頭にかけて発売されていたこともあってか、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』や『ブレードランナー』、日本の作品でいえば、AKIRAや士郎正宗作品など、当時のSF作品が下敷きになっていることがうかがい知れる。人体改造の技術が進み、インプラント術によって、体だけでなく、中身まで全て交換することが可能になった世界。巨悪として立ちふさがる巨大な日本企業。上流階級と下層階級の分断が進み、荒廃する街。郊外ではマッドマックスさながらの武装集団が待ち構えている。一方電脳空間には、精神のみの存在が、といった世界観をち密に描きこんでいる。その辺にある貼り紙、車で流れるラジオでかかるラップや電波な音楽とにかく、こまごました部分も徹底している。
1993年に発売された、サイバーパンク2.02.0の邦訳版などももとにしているためか、日本語ローカライズもおかしなところはなく、舞台を彩る声優陣も豪華。実はメタルギアシリーズでおなじみ小島監督が隠れているなど、イースターエッグも用意されており、かなり手が込んでいる。
舞台となるのは2077年の近未来。カリフォルニア自由州にある企業都市ナイトシティ。物語の中心を担う大企業アラサカを始めとした企業が集まる、シティセンター、低収入労働者が集まる工場地区ワトソン、歌舞伎町やニューヨークをほうふつとさせる繁華街ウエストブルック、中南米の繁華街をほうふつとさせるスラム街サントドミンゴ、最も凶悪とされるギャングヴゥードゥーボーイズの根城となっているパシフィカ、そして郊外に広がる荒野バッドランズの6つの地区に分かれている。このナイトシティでメインストーリーが展開していく。
ストーリー自体も悪くないのだが、このナイトシティをうろうろして、こまごまとした開発陣のこだわりを掘り下げていくのが楽しいゲームだと感じた。
メインストーリーに当たる、メインジョブの内容は短め。正直たんぱくに感じるところもある。だが、街の警官、マフィアから逃げそこなった若者、妻の裏切りを気にする飲み屋のバーテン、インプラント手術を重ね、狂っていくロックスター。夢破れて街をさるエンジニア、心が芽生えた自販機、など舞台となる街を彩る普通の人々の生き様にも光を照らすサイドジョブの豊富さは秀逸だった。やりこんでいると100時間でもプレイできてしまいそうだった。さすがウィッチャー3を手掛けた会社のソフトなだけはある。
ゲームはFalloutやSkyrimなどに近い、1人称のアクションRPG。刀や鈍器など近接武器で殴っても良し、体に移植した鉄拳やひじから飛び出るブレード使い身を隠しながら敵を排除するもよし、リボルバーやアサルトライフルで真っ向から打ち合うもよし、遠距離から狙撃するのもありと、遊びがいある。武器は基本的に現地調達。敵から奪い取るも、その辺に落ちているのを使うのも、クラフトして作るのもありだ。特に刀への並々ならぬこだわりが感じられた。かっこいいよね刀。
これ以外にもサイバーパンク2077のオリジナル要素を用意している。それがクイックハックだ。本作では敵の神経系やそこら中にあるカメラやタレットなどをハックすることで優位に立ち時にはそのまま敵を無力化することもできる。神経系を焼き切るもよし、カメラの視界をジャックして、敵の位置を探り戦略を立てるもよし、こちらもまた楽しみ方が豊富だった。
あくまで個人的な感想なのだが、私はFPSや1人称視点のアクションゲームは初心者だが、ハードモードでプレイしていて、プレイスキルが原因で詰むような印象は受けなかった。
レベルは50まで。1つレベルを上げるごとに肉体、反応、技術、知力、意志5つの能力値のどれか一つを挙げることができる。また各能力値にはスキル(パーク)が割り振られており、レベルを上げることでパークポイントを一つ、クイックハックや武器の使用、アイテムのクラフトなど該当するアクションを採ることでもパークを獲得することができる。
能力値は上限まで上げられるものは多くて三つ。ダークソウルシリーズなどのように、能力値を再度降りなおすこともできない(パークに関してはアイテムを使い獲得しなおすことができる)ため、いわゆるレベルを上げて物理で殴る、といったプレイスタイルはできない。肉体を高めて物理で殴るか、技術を高めて強い武器を作るか、などなど戦略が求められる。一部の能力値はストーリーを優位に進めるうえで約に立つ場合もある(上がっていなくて摘むことはない)ので注意が必要。やはりコアゲーマー向けといった印象だ。個人的にはゲームを手っ取り早く優位に進めたい場合には、肉体、技術に極振りし、後の能力値は好みに合わせてあげるのがよいと感じた。
ストーリーには気になる点も
とはいえ、バグを抜きにして気になる点があった。
ひとつは不親切であること。これは織り込み済みでプレイしろよ、という部分ではあるのだが。
メインジョブに関わるサイドジョブ(エンディングに関わるのでどちらかというと、プレイしない選択肢のあるメインジョブといった感じ)以外は、プレイヤー側がただ待っているだけでは、ほとんど情報が明示されない。街を探索しながら、とっかかりを見つけることになる。
これだけならいいのだが、基本的にほとんどのサイドジョブにはつながりがない。クリアすれば、それっきりで終わりである。一つ一つは感動的であったり、街の闇が垣間見えたりと、面白いのだが、やりっぱなしになっている感が否めなかった。
またプレイヤーが選ぶ、コーポ(企業の人間)ストリートキッド(マフィア)ノーマッド(荒野で自由気ままに暮らす)といった三つのライフプランもあってもなくても変わらないという印象を抱いた。
確かにライフプランごとに、序盤の展開が変わるし、中盤以降、選んだライフプランでしかプレイができないサイドジョブが出てくる、ストーリーを進めるさい、独自の選択肢が出てくる(別に本筋には何も変化がない)といった選択したライフプラン独自の要素はある。だが、それくらいのもので、あまり必要性が感じられなかった。
DLCも出るということなので、個人的にはもう少し掘り下げてもらいたい次第である。
その点で言うと、ストーリーも冒頭に書いたように大味だと感じた。ナイトシティの雰囲気をプレイヤーが楽しめるかどうかにかかっているところが大きいように思う。
またメインシナリオに関しても、説明不足の感が否めない。サイバーパンクの原作者であるマイク・ポンスミスシナリオに関わっているということで、原作にかなり忠実なのだろうが、専門用語や舞台設定など、フレーバーテキストはあるのだが、プレイヤーが意識的に町中で痕跡を探さなければわからず、ストーリーの内部ではっきりと明示されることはない。
重要な役割を果たすジョニーシルヴァーハンドにしても、サイバーパンク世界において、どれだけ重要な人物なのか、原作をプレイしていないといまいちつかみきれない。
あくまで個人的な話だが、キアヌリーブスが、ブラッドピットの役を代わりに演じている『ファイト・クラブ』みたいな印象を抱いてしまった。もちろんそれはそれで面白いのだが、完全に楽しむには原作の知識も必要だろうと思う。
また、PS4などコンシューマ版では、キャラメイクやロマンス(恋愛、というかセックス)など一部のシステムには規制が入ってしまい完全には楽しめない。キャラメイクではインプラントを利用して、女性にいちもつをつけたり、男性に乳房を付けたり見たいな遊びがPC版ではできるらしいのだが、それはなし。またロマンスもピロートークをしたら終わり、という感じ。こちらも仕方ない部分ではあるが残念である。
戦闘システムに関してもストーリーを進めていくと最終的には銃撃戦、あるいは刀や鈍器で殴り合うプレイスタイルを取らざるを得ない局面が増えてくる。縛りプレイ的な楽しさはあるのかもしれないが、正直なところ、あまりステルス、あるいはテックを利用した戦法を採ることができなかった。
バグはかなり多い PS4だと頻繁にブルースクリーンに
また本作ではバグが多数あることも報告されている。
致命的なものこそなかったが私もプレイ中、細かいものまで含めるとかなりの頻度で遭遇した。見えない壁に囲まれて動けなくなる。いきなり穴に落ちて死ぬ、ジョブが進まない、空中にういたまま死ぬ敵とか。ただ、これらはロードすることで基本的には解消できた。きつかったのがブルースクリーンだ。
ちょっと街を歩いているときであればいい。だが、おそらく処理の関係かボス戦の前後やストーリーのムービー中、戦闘の途中など、肝心な時で落ちるときが多く、うんざりしてしまった。
それ以外にも、ラグが出たり、キャラの挙動がおかしくなったり、激しい動きをする敵キャラクターやボスの動きが途切れ気味になってしまったりと、バグとは言えないものの、プレイに支障を感じるものもあった。正直なところPC版は別として、コンシューマー版はあまりお勧めできないという印象である。(PS5がどうなるのかはわかっていない)
正直返金対応をすると発表したのも当然といえる。
もちろん、一時期話題になっていたはてなブログの記事に書かれていたように、ゲームの世界観として、バグありきでもあながち悪くない部分も確かにある。味と言えば味なのだが、やはりプレイに支障がでるのはきつい。
今後のアップデートに期待したいところである。
ファシズムの教室を読んだ
結局情報の海に埋もれてしまった感があるが、しばらく前、堀江貴文氏のtwitter上での発言がひとつのきっかけとなり、広島県のとある餃子店が休業に追い込まれた話が話題になっていた。
餃子店を訪れたホリエモンご一行。一人がマスクをしていなかったことから店長がマスクの着用を求めたところ、ホリエモンが激昂。これはたまらんと入店を拒否した店長の行動をホリエモンがFacebook上に綴ったことをきっかけにホリエモンの取り巻き*1たちから餃子店への抗議の電話が相次ぎ、店主とその妻は疲弊、休業に追い込まれたというのが騒動の顛末だ。
正直なところ、恐ろしいの一言である、数十万といるホリエモンの取り巻き。それが無批判にホリエモンからの情報だけを頼りに、突っ込んでくるのである。突っ込む人間も暗に突っ込むように取り巻きをそそのかしたホリエモンも、何故そんなことができてしまうのだろうか。全く理解ができない
だが、一部の人間に心酔して、真偽も確かめず、電凹をしてしまう人。お気持ちで正義を執行して、顔の見えない相手を死ぬまでたたき続けてしまう人。明らかにおかしい思想を信じこんでしまう人。何にも中身もないオンラインサロンに金を払って通い、インターネットでサラリーマンをあおり始める人。こういう不可思議な話は、実のところよくある。一体全体、なぜそんなことが起こるのか。
問題の答えが書いてある本の一つが、『ファシズムの教室』だった。
執筆したのは主にナチズム研究を専門としている、甲南大学教授で歴史社会学者の田野大輔氏。氏が、2018年まで大学で行っていたファシズムの体験学習をもとになぜ”普通”の人間がナチスによるユダヤ人大虐殺のように、残虐な行為に加担するのかに迫った一冊だ。
本書はファシズム研究、ナチズム研究、あるいは生来的に人間が権威に追随してしまう、そのメカニズムに迫った社会心理学の実験*2など、これまでの知見を参照するとともに、甲南大学で田野氏が行っていたファシズムの体験学習*3の内容、そこから得られた知見を紹介していくものとなっている。
本書で繰り返し田野氏が強調するのは、ファシズムやナチズムが、圧政者、狂気的な指導者によって力づくで生まれたわけではない、つまり、人間には生来的に権威に追随することを選ぶ、何らかの性質があるのではないか、ということである。
もちろん、武力による弾圧、その影響は否定はできないだろう。だが、確かに、世の中には、所属する構成員の行動を善とし、集団で特定の性質を持つ人間を一方的に痛めつけるような構図というのはたくさんある。冒頭に書いたホリエモンの取り巻きたちもそうだし、学校で取り立てた原因があるわけでもなく”なんだか気持ち悪い”とか、そんな理由でいじめられる子供たちが出てくるのもそうだろう。思えば私も、鼻くそをほじっていただけで、学級会で謝れとつめられたことがある。
人間は何故権威に追随するのか、同調圧力を強め、集団に属さない、あるいはルールに従わない人間を攻撃するようになるのか、その背景にある性質を明らかにするため、また生来的にいわゆるファシズム的な状況に人間や人間の集団がおかれやすい、という恐ろしさを学生に認識してもらうために行われたのが田野氏の「ファシズムの教室」というわけである。
ファシズムの教室の内容自体は非常にかわいらしいものだが、以下の点をしっかり抑えている。
特定の指導者がいる、かつ彼を崇拝するような構図
成員に共通する行動様式や衣装を用意する
学生たちからのフィードバックからは、敵を糾弾する時に昂揚感が高まっていく様や次第に「ハイルタノ!」と田野氏をほめそやす言葉を発することや共通の服装でいることの恥ずかしさを忘れ、服従することの喜びを見出していくさまが描き出されていく。
ただ、結局、ファシズムの教室は2018年を最後に終わってしまった。マスコミに取り上げられたことによって、大きな批判が寄せられたからだという。
批判の多くは簡単に言えば、臭いものには蓋をしろ、という論法のものだ。要するに講義を通じてファシズムの魅力を知ってしまえば、それを悪用するのではないか、触れさせないほうが良いのではないかというものである。田野氏はこの批判に疑義を呈している。
昨今コロナ禍によって不安が高まり、他者の行為を糾弾するような言説が多くみられるようになった。もちろん、感染症対策として必要な部分もあるが、感染した人間など特定の人間を追い詰めるようなものも少なくない。
田野氏は本書を執筆後、朝日新聞のインタビューでファシズム的な言動を避けるためにどうすればよいかという質問に対し以下のように答えている。
「ファシズムの体験学習の受講生の中にも、糾弾されるカップル役の学生がかわいそうだと感じる人がけっこういます。相手も自分と変わらない学生であり、もしかしたら自分がその立場にいたかもしれない――という想像力が、糾弾をためらわせる歯止めになります。
ナチスの時代にも、抽象的なユダヤ人には敵意を抱く一方、近所に住むユダヤ人には親しみを感じていた人が多くいました。具体的な血の通った人間に対しては、危害を加えることは困難です」
(出典:
「コロナ自警団」はファシズムか 自粛要請が招いた不安 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル)
とはいえ、ネットがインフラとなった現代社会では、顔のない他人の行動が嫌でもたくさん目に付く。顔のない人間にまで、想像力を働かせることは難しいだろう。そのためにも、田野氏が行った講義のように、恐ろしさをしる、想像力を働かせられる素地を作る体験が必要ではないだろうか。
*1:フォロワーと言えるのかもしれないが、無批判に追随していることからこの言葉を使った
やスタンフォード大学の監獄実験などが紹介されている。
*3:アメリカで過去に行われた高校教師、ロン・ジョーンズが行ったサードウェイブ実験やそれをもとにしたドイツ映画The WAVEをもとに、田野氏が改良したもの
いかに詳しい
https://jss-sociology.org/research/86/396.pdf
サードウェイブ実験に関して
映画The WAVEに関して
写経で文章がうまくなりたい10 フェイクニュースが一大産業になった街、北マケドニア・ベレスの話
アメリカの大統領選挙が終了して、もう少しで一月立つ。昨日はようやくバイデンの勝利がほぼ確実なものとなった。いまだにトランプ陣営は何やら動きを見せそうな雰囲気もあるのだが、個人的にはひとまずほっとしている。だってあのおじさんヤバイじゃん。
そんなわけで、改めて、なんでトランプというモンスターが大統領になれたのかいろいろ記事を見ていると面白いものがあった。
2016年の大統領選でトランプが勝利した背景にあると言われるのが、ネット上に拡散されたフェイクニュースだ。その生産工場の一つとなっていたのが、アレクサンダー大王の出身地として知られるマケドニア(2019年に北マケドニアに国名が変わった)の小都市ベレスである。
日経新聞社編集委員である古川英治氏が、現地でその背景を取材、まとめた書籍、『破壊戦 新冷戦時代の秘密工作』*1を上梓した。その一部が文春オンラインで公開されていたので、写してみた。
記事によれば、ベレスは平均月収が約400ユーロほどと言われるマケドニアでもさらに低い街で、200ユーロ程度の稼ぎで暮らしている人間が多数を占めるのだとか。
もともとソ連時代には工業地域として仕事もあったというが、ソ連崩壊とともに、そういった需要もなくなり、閑散とした街となったベレスに降ってわいたのが、フェイクニュースバブルというわけである。
記事では、こういった背景事情を説明するとともに、バブルによってあぶく銭を得た10代の若者と自称20代の山師然とした男と筆者との対話が描かれている。
前者の若者は、恐ろしさを感じてフェイクニュースサイトをやめたというが、20代の男は儲かるので続けているという*2。ちょっとした小遣い稼ぎと、しのぎ、向き合い方にこそ違いがあるが、両者との対話の中からは大きく分けて二つの事実が明らかになる。
一つは、ベレス、マケドニアの一般的な稼ぎと比べ、フェイクニュースは圧倒的に稼げるということ。10代の若者は1日5時間ネット上で嘘のニュースを見つけ、機械翻訳し、それを自分のサイトに貼り付けるだけで、ベレスの平均月収の倍以上を稼ぐ。
20代の山師は1日8時間労働で数千ドルを毎月荒稼ぎしていたという。中には高級外車を乗り回す、”フェイクニュース長者”もいるのだとか。そりゃ確かにやめられないか。
もう一つあるのは、彼がほとんど悪びれていないということ。記事のタイトルにも「コピーしただけだ」という文言が踊っているが、筆者が「罪の気持ちは?」と彼らに水を向けると帰ってくるのは、バカなアメリカ人が拡散しているだ、コピーしただけだ、という自らを正当化する言葉だ。この文春オンラインの記事ではないが同じ話題でWiredに掲載されていた記事では、親が子供にフェイクニュースの執筆を推奨しているという話もあった。シンプルに恐ろしい。
一方では、彼らの行いに納得できる部分もある。汗水たらしても月に数万円程度の月収。表面上はだれも傷つけず、バカをだましているだけで、じゃぶじゃぶと大金が転がり込んでいるのである。自分がその環境にいたらやらないほうがバカだと思うかもしれない。
まあ、マケドニア、おそろしや、とも思っていながら読んでいたのだが、冷静に考えれば、こういった問題は対岸の火事ではないともいえる。振り返ってみれば本邦でも、ネットで5分くらい調べればわかるような嘘を信じてやまない人の言説が飛び交っており、そのもととなる情報を流して金を儲ける人間もいる。一部のネット〇翼とか、オンライン〇ロンとか。程度の差こそあれ、ネットの空間とはそういうものなのかとも思わざるを得ない。日本でもベレスほどではないが、日に日に格差が開いている。嘘でも一発当てればいいという人間も増えているようにも思うし、確実に嘘だとわかるはずの情報でも、自分の信じた世界を壊さないために、すがるしかないほど過酷な環境に置かれている人間も増えているように思う。
自分がいつ、彼らのようになるのか、あるいは彼らに踊らされる人間になるのか、実は紙一重のところにいるのかもしれない。
終わり
ワイアードの記事
写経で文章がうまくなりたい9 アカシア茶裁判について
全国新聞ネットが運営しているニュースサイト47newsにて面白い話題があったので、そちらを写してみた。執筆者は共同通信社の武田惇志記者。
題材として取り上げられているのは”アカシア茶”裁判である。ことのあらましはこうだ。被告となっているのは『雑草で酔う』(彩図社)などで知られる青井硝子氏。青井氏はもともとインターネット上で幻覚物質DMT(ジメチルトリプタミン)を含有するアカシアコンフサの飲用粉末(通称アカシア茶)を販売していた。
昨年7月、青井氏からアカシア茶を購入したした京都市内の学生が、煮出した茶を摂取したところ、意識がもうろうとした状態になり、病院に搬送された。搬送先の病院で尿検査の結果DMTが検出、警察に摘発された。
その後3月3日に京都府警と厚生労働省の近畿厚生局麻薬取締部が学生に麻薬をほう助した疑いがあるとして、青井氏を麻薬取締法違反の容疑で逮捕した。
もちろん、DMT自体は麻薬として規制されている。だがそもそも麻薬取締法では麻薬原料植物として規制されていない植物が麻薬成分を含んでいても、規制対象とされていない。アカシア茶の原料であるアカシアコンフサももちろん規制対象外である。記事中にもあるが、DMTは身近な植物でいえばミカン属にも微量ではあるが含まれているのだという。
現在保釈された青井氏と弁護側は、こうした背景から無罪を主張。一方で検察側はゆるがず、青井氏の有罪を主張。アカシア茶の違法性を巡って検察側と青井氏が争っているのである。
当該記事はざっくり説明すると、アカシア茶裁判を概観。それとともに麻薬取締法をはじめとした、法律の整理、今回取りざたされたアカシア茶、ひいてDMTのようないわゆるサイケデリックス(幻覚剤)とは何なのかを説明していく。
そしてそれにまつわる様々な議論、例えば日本では違法とされているものの大麻やLSDなどの幻覚剤、いわゆるサイケデリックスは諸外国では治療用に使える事例も報告されている。こうした有用性を無視して規制するのは果たして的確なのか。
またそもそもとして、違法薬物の使用は依存症になる本人は別として、明確な被害者のいない犯罪ともいえる。それをどうとらえていくべきか。
エビデンスや伝統的に儀式などで使用されている中南米の研究者のコメントをもとに紹介していく。そして、厳格規制一辺倒の日本の薬物司法に疑義を投げかける、という内容で非常に興味深いものだった。
個人的な立場としては、まず、違法薬物の使用に関してはだいたいの場合被害者はいない。よく言われる、ブラックマーケットに資金が流れるのではないかという指摘も非合法化しているからこそなのではないかと考えている。違法薬物の使用を一辺倒に犯罪として刑事罰を課すのは的確ではない考えている。
統計にも出ているが、覚せい剤使用者には累犯者が多く、つまり、刑事罰は治療にはなっていないと指摘する専門家もいる。仮に治療という観点から見ても、個人的に刑事罰は的確ではないだろう思う。
このあたりは薬物依存症治療の専門家としても知られる国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師がメディアで取材に答えた内容や単著『薬物依存症』に詳しい。
また、大麻など一部の違法とされる薬物の中には疼痛の緩和や精神医療分野などで一定程度エビデンスが見られているものもある。規制一辺倒で四角四面に考えるのではなく、しっかりと限界や副作用を理解したうえで、使用することも考えるべきではないかとも思う。あと、あくまで個人的にだが、学校教育の”ダメ絶対”も嫌いである。
ただ、青井氏のスタンスに関しては疑問が残る点もある。氏が販売した茶を飲んだ学生が朦朧とした状態になり病院に搬送されており、見方によっては被害が出ているとも言えなくはないだろう。(青井氏がその後学生とどのようなやりとりをしたのかなど詳しくは調ベラれていないという点は記しておく)
まだ裁判は続いている。結果がどうなるのか、個人的には99.9%が有罪になる国なので、あきらめに近い思いを抱いてはいる。だが、この件によって議論が進み、もう少し面白みのある社会になるのではないだろうか。
了
終わり
写経で文章がうまくなりたい8 ストロング系害悪論を大手はどう見ているのか
今回写したのは週刊東洋経済のオンライン版、東洋経済プラスの『ストロング系害悪論にメーカーはどう答える』という記事(無料会員に登録していないと見れない)。昨今いわゆる度数9%のストロング系チューハイに関して依存症専門医などから、度数が高いうえに安いし飲み安い、依存につながるのでは、といったいわゆる害悪論*1
また、ついアルコールを飲んでしまう、社会問題についても考える必要があるだろう。あくまで個人的な肌感だが、金のある人間や趣味として、飲酒を楽しんでいる層、コミュニケーションの場でしか摂取しない、仕事や人間関係がうまくいっているという人間が好んで毎日ストロング系を飲むという話はあまり聞かない。
結局のところ、ストロング系をやり玉に挙げて、仮に是正が進んだとしても、ついついストロング系を飲んでしまう根底にある、強い酒でも飲んで忘れたい、つらい気持ちや孤独感、眼前にある問題が解決するわけではない。
あと、個人的には宝酒造の強気の姿勢がよかった。確かに宝酒造はいわゆるチューハイにこだわり、いい意味でアルコール感が強いというか、飲み安くてぐいぐい行けてしまう商品を作っているわけではないので、他とは違うという意識もあるかもしれない。個人的にも好き。
なんだか取り留めもなくなってしまったがこんなところで終わり
ちなみに紹介している本は薬物依存症の問題を多角的に扱った良い本です。気になる人はそんなに高くないので読むとよいです。
*1:記事を書いた東洋経済の兵頭記者は他に以下のような記事も出している。
金原ひとみ「ストロング系は罪深き飲み物」 | 健康 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
精神医療の現場で感じるストロング系のヤバさ | 健康 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
最後にチューハイ売り上げ大手5社(サッポロ、キリン、宝酒造、サントリー、アサヒ)に質問をぶつけていたのも良かった。
個人的にはお酒そのもの以前に、合法非合法を問わず、依存性のある薬物との向き合い方を教えていない、もう少し言えば、だめ絶対でとどめている教育も問題だろうと思ってしまった。アルコールもそうだし、市販薬で依存症になっている人間も日本にはたくさんいる。((参考記事
せき止め乱用、10代で急増 厚労省の薬物依存調査: 日本経済新聞
厚労省の報告
メルカリは治安が悪い
ここ2,3年金もないし、捨てるのももったいないな、ということでメルカリをはじめとしたフリマアプリやヤフーオークション、ジモティなどを使って、不用品を売ったり、趣味のものを買ったりしてきた。使ってみてつくづく思うがメルカリは治安が段違いで悪い。マナーが悪いというよりも内部の統制が取れていない,無法地帯のような雰囲気を感じている。
私がものを売っていて実際にあったことでいうと、突然なんの脈絡もなく半額以上の値下げをしてくる人間がいたり「前にその価格で見たから」とこっちの説明は全く無視して値下げ交渉をしてきたりするのは当たり前。散々質問をしてきて手渡しの交渉までした後にやっぱり予算が足りないと突然断られたり。こういう場合、質問履歴が残ってしまうので、他に購入を考えている方が手を出せなくなり、非常に迷惑である。なんというか、画面の向こうに人間がいると思っていないような対応をする人間が少なくない。ただ、こういう無茶な要求をしてくる人間やこちらのことを考えない人間というのは話していると地雷かどうかなんとなくわかるので、システムで対処しようもある。ブロックしたり、コメントを消したりすればいい。問題なのは突然購入してくる奴だ。
メルカリはヤフオクなどと違い、基本的には出品者が付けた値段で売りきりのシステムだ。だから、値段だけ見て勢いで買う人間なんかもいる。これはもう避けられない爆弾みたいなものである。説明文に壊れていると書いて出品したのに「壊れているとは思わなかった、返品させろ」と文句をつけ、断ると「こいつは悪質な輩だと」評価欄で人格攻撃をしてくる人間もいた。不具合があることや傷がついていることを説明したが「おれが思っている不具合と違った」とごねる人間、中には自分が高齢者だということをかさに着て「もっと丁寧に対応してくれると思っていましたおじさんは悲しいです」と言い出す人間もいた。説明をちゃんと読まないのにいい歳もしていちゃもんを付けるようになったそっちの方が悲しいのだが。もちろん、こちらに不手際があれば、対応するのだが、そういうこちらに落ち度があるトラブルよりもいちゃもんをつけてくる人間の方が多い印象である。まだ、自分でおしりを拭けるオトナだといいのだが、誰でも売り買いできるので、おそらく子供と思しき人に自分が出品しているものが飼われることもある。私はまだ体感していないが、出品者の落ち度でないトラブルで相手方の親が出てきて非常に面倒くさいことになったという事例もあるらしい。恐ろしい……。
売り手の問題という点でいえば、一つは以前このブログでも書いたが特に趣味の品で知識もほとんどない人間がゴミのような値段でお宝を売っていることだろう。購入する立場だとうれしいことこの上ないのだが、結局安い値段で売れてもおそらく転売されるだけなので悲しい部分もある。もう一つはこれも私は体感していないのだが、販売している人間に難癖をつけて、出品をやめさせる、つまり商売敵を引きずり下ろすような行為をする人間もいるらしい。こういう話を聞くにつけ治安が悪いと思ってしまう。
やはり背景にあるのはスマホで数秒で出品できてしまうことと、売り切りというシステムにあるのだろうと思う。またヤフオクのように登録のようなひと手間が必要ないのも大きいと思う。一方で自由さゆえに、草で作った指輪などオリジナルな不可解な物品を売る人間がいたり転売屋の質問欄を荒らして出品をやめさせたりと、面白い風景も見られたりするのだが。まあ、便利なシステムには便利な分いろいろなデメリットがあるということなのだろうか。